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ものごとが滞りまくっていて、その中でもかろうじて人と関わる部分は、なんとかしなくちゃと動けるんだけど、肝心なところを放ったらかしにしているせいで、自分のやりたいことややらなくちゃいけないことがズンズンと、土に埋もれて手が届かなくなって、どうもない小さな嘘を撒き散らして、言いたいことを言うのもかったるくて、毎日寝て起きてもなんにもリセットされてなくて、わかってるのにってことばかりがのし掛かって、途中で考えるのを止めたものごとたちばかりが表情もなく、ジリジリと詰め寄ってきて、部屋の床の狭さと比例して、気持ちの空の青が減ってく。
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大きなピザがどんどんと冷めていく。
ゴムのように硬くなったモッツァレラチーズが重たそうに乗っかってなにも言わずにこちらをじっと見ている。
上座だとか奥の席がソファだとかそういうことは関係なくいつもわたしは入り口の見える席に座りたい。うまく当てはまる言葉がわからないけど、瞳の多動症とでも言おうかなにか常に動いてるものを見ていないと落ち着かない。それが氷が溶けるのでも、子供が走り回るのでも、誰かにキスされるのでも同じこと。壁をじっと見るのは耐えられないけど、ガラスは液体で常に動いてるんだよって教えてくれたでしょ。少しずついろんな呪縛が解けていってるような気もする。
そんなことないよって言うとき、本当にそんなことないんだけど、口ではそう言っていても耳に入ってくるそんなことないよって言葉はどこか嘘っぽく聞こえて、あれ?本当にそんなことないのかなって、そんなことなくなくなってくる。
どんなにやわらかくて大きくてあたたかい幸せをもらったって、この間もらったかたくて小さくてつめたい棘が残ってるから、そんな幸せも膨らまし粉で膨らんでるだけのスカスカな幸せに見えてしまう。
二階から花束
どうにかしてしまいたい。
気持ちの追い付かない涙を、沈んでいく破れた太陽を、寄り添ってもビクともしない悲しみを。
ふとんの中で聞く雨の音は生温くて、読書灯の煌々としたのを想いながら熱でちかちかする目をぎゅっと閉じる。
悲しみの共有はより一層悲しさを募らせることになるってなんとなく知っていたけど、いっときの安心にそそのかされてつい人の悲しさに自分の悲しさを重ねてしまう。
遠い人から投げられる大きな岩よりも、近くにいる人から手渡しでもらう小さな棘の方がずっと痛くて、ちいさなたくさんの棘でしぼんでしまった心に、待ってましたとばかりに冷たい風が吹き込んできた。
そうやって泣きながら寝た次の日はどこか空が重たくてわたしも何ミリか地面に沈む。
いつまでこうやって泣くの。
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金曜日の朝にカーテンの隙間から部屋に入る陽射しは、金色の、それはそれは暖かい色をしている。暖かいのは色だけで、ふとんの外側がしんしんと冷えているのを知っている。二度も。おかあさんが、蜘蛛を踏んだ。きのうみたく度を超えた夜ふかしをした次の日だけ早く起きられるへんてこな身体で、少し優雅に伸びをした。日々の統一感のなさ。全てがズレている。淡々と綺麗に並んでいるからこそ、ズレをおもしろいと思えるのかもしれない。抜け感しかないな。生牡蠣をずらっと並べて一気にレモンを絞って飲みたい。気に入ったものはしばらく食べつづける。目覚ましのアラーム、8時57分の次は9時3分。朝ごはんはここ最近食べてない。目玉焼きにはお醤油だよね。床を通して下のリビングから聞こえてくるくぐもったテレビの音を全身で受けとる。NASAの人!部屋に飾った紫のスイートピーの花言葉をこのあと調べるんだと思う。遠くの近くに雨の予報。
雪などが積もる前に
楽観的にものごとを捉えるしかやりようがない。
電子レンジの中で冷めていく麦茶の湯気を想う。
イルミネーションの粒を端から数える。乱視のせいで倍綺麗。
頬を刺すつめたい風に立ち向かう勇気もなくて、ね。
おわりよければすべてよし。おわりがどこだかわかんない。
ぐっすり眠れ。
大きな飴玉がトラウマでなにが悪いの。
天橋立で逆立ち。
もうしばらく造花しか見てない気がする。
わたしが参加しなかったキャンプファイヤーのことを思い出す。
床暖房にべったりくっついて、少し経ったら裏返す。
どこまでも引ける弓。
キラキラのペンで書いた交換ノートは全部わたしが止めてる。まだ。
昼の蝶々。夜の蛾たち。
イミテーションのイミテーションはイミテーション?
いつもいつも自分のひとくちを見誤るひと。
かすかに聞こえる冬の足音。わたし、耳がいいから来年のだと思う。
チェックのほつれを見つけるとうれしい。
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雨が雪に変わるところを見たくてパジャマにマフラーだけ巻いてベランダに出た。小さく風が吹いてしんしんと冷えていく体と裏腹に心の奥が沸々している。冬になっても庭の朝顔は屋根まで伝い、しなびた花が綺麗な青紫色で部屋を覗いてる。(2016.11.23)
目が覚めて一番に好きなひとに電話をかけた。雪が降ってる。薄く積もってる。11月の雪も札幌じゃめずらしくないのかな。電話は繋がんなくて、昨日の夜に明日は朝から仕事って言ってたのを思い出した。わたしも少し目が覚めてきた。雨よりかたくてやわらかい音が聞こえる。真っ白い空から真っ白い雪が真っ白い地面に落っこちるところを見てる。どっちが上でどっちが下かもあんまりわからないね。 (2016.11.24)
裸足のつま先がかじかんでいくのを感じながら暗いベランダでライターの火の揺らめきをじっと見つめる。煙草の煙と冬の白い息の見分けがつかない。iPhoneから流れるクリスマスソングは部屋の中に置き去りにされて、わたしは遠くの音に耳を澄ましている。本の続きが気になるけど今日はもうこのままベッドに行くつもりでいる。返事をしてない毎週末の誘いを思い出してほっとしてる。そのままわたしに慎重にならないでいてね。(2016.11.24夜)
剥がれてきたジェルネイルを除光液とヤスリを駆使して無理矢理落とすのももう慣れてしまった。しっくりこない爪の色にううんと唸りながら三回塗り直した。明日の準備で今日が潰れるみたいな生き方は嫌なんだけど、わたしはどうやら最近毎日がいつかの準備になってる。本当のところ夢の話しかできないよ。ここでいう夢は、寝てから起きるまでの間に見るほう。(2016.11.25)