■
本当に嫌だと思ってた小さなズレも一つの段差だと思ったら急に許せてしまった。汗ばんだみぞおちも、砂っぽい足の裏も、花火に集まる小さな虫も、溶けていくソフトクリームも、灯りのない一本道も、どうしようもないくらいに自分のことに思えた。いつも渦の中には何もなかったけど、たまにはこんなこんなにぎっしりと何かがあることもあるんだなって。忘れたくないし忘れることもなさそうな夜だったね。
■
意味なんかないさ暮らしがあるだけ
本当にそうなのかなって思ってたけど、どうやらわたしはそうみたい。名前もない穴のようなものに嫉妬をしたりする自分が酷く醜く思える。逃げも迷いも見て見ぬ振りもやめたところでようやくゼロだ。校庭の砂場をトンボで平すのが好きだった。所詮、そういうことだったんだ。この文章だってなにかを言ってるようで、なんにも言ってない。それ以上もそれ以下もなくてただ毎日が
■
「幸せがなんだかわからないまま幸せになれるのかな。」「(大きく口を開いて)し・わ・わ・せ?」「ううん。し・わ・あ・せ。…あれ?し・わ・わ・わ・わ・わわわ…なんだっけ?」「あの子絶対やったよね。」「それわたしも思ってたー!」「目尻かな?」「たぶん目尻切って涙袋入れた。」「てかあの子結婚したの知ってる?」「えーまじで誰と?」「〇〇」「うっそ!ウケる」「 最近どう?」「最近?別に。まあまあじゃん?」「だよね。」「結婚したいとか思う?」「そりゃあ幸せになりたいよ。」「俺は将来の夢がお嫁さんっていう子、好きだけどなぁ。」「付き合ってる理由もないけど特に別れる理由もないし。」「いつまで続けるんだろうね。」「あー石油王と結婚したい。」「すればいいんじゃない?」「なにを?浮気?」「そう。幸せになりたいもん。わたしたちは。」「さっきの居酒屋で男の子に声かけられてさ、どうやらその子はわたしのことを知ってるのよ。でもわたしは全く覚えてなくてぽかーんってしちゃったのね。その時の顔見てかわいそうになっちゃって急に思い出したふりしたんだけどやっぱり全然知らないんだよね。」「えーそれナンパじゃん?タチ悪いよ〜」「会社の飲み会って言ってた。」「めっちゃ見てるよ。」「 」「そうだね。」
■
めずらしく待ち合わせの15分前に着いたら桜ヶ丘カフェは貸切だった。仕方なく外に置いてあるソファに座ってヤギを見ていた。ピンクと白のヤギ。よくわからないけどmiumiuみたいだなと思った。その後綺麗なホテルのラウンジでたっけージンジャーエールを飲みながら初対面の人の犬の写真を見た。その日いちばんのかわいい声で「かわいー!」と言った。犬はかわいかったがわたしはたぶんかわいくなかった。充電が切れそうでコンビニ駆け込んだけど充電ケーブルが2500円もすることに驚いてやめた。本当に喫茶店のバイト2時間分の価値があるのかなと思った。居酒屋に入ったけど充電は切れてるしマイペースな女の子たちは待ち合わせ時間になっても誰も現れない。暇だし壁にかかったメニューを何度も読んだ。食べたいものはなかった。999円の金宮のボトルをみんなウーロン茶で割った。居酒屋で全員同じものを飲むことなんて滅多にないからなんだか嬉しかった。女たちは全員かわいかった。代官山は静かだね。あの曲がかかって、吸ってた煙草の火を途中で消してフロアに出た。外は明るくなっていた。少しだけ雨が降った。朝のタクシーで眠る。それはもう爆睡。洗濯物の、バスルームの、外の雨の湿気の中でも喉はカラカラ。鏡を見てる人を見てると自分がどこにいるのかわからなくなるね。(2017.5.12)